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2013/08/01



虹色キセキ (65)


*土佐弁は適当です。さらっと読み流して下されば幸いです。ご了承下さい。


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店員が持ってきた酒は高級品だった。
それを飲みながら坂本は向かいでお茶を飲んでいる月詠に愚痴をこぼした。
「まっこと今回のことは不可抗力やき。まさかターミナルで出くわすらぁて思ってもみんかった。どうにか撒こうとしたけど思ってたよりしつこかったけん・・」
「それでこの吉原で撒こうと?」
「夜王の治めるここで春雨所属の夜兎が暴れるなら誰かは必ず止めると思うて。現に銃声は数発しか聞こえてこん。きっとあの部下が止めたんろう。」
「それにしてもよく逃げれたもんじゃのう。」
「そこはそれ。灯台元暗しじゃき。まさか真横の茶屋に入ったとは思わないろうし・・。」
「まぁ。そうみたいじゃな。」
月詠はため息をつきながら頷いた。
表ではすでに騒動は落ち着いたのだろう。ざやめいた気配が消えている。
「それで?これからどうするでありんすか?」
「んー。実は呼び出されてこの星にもんてきたからなぁ。約束の時間からえらく遅れちゅうが行くとしよう。」
「裏道を案内するでありんす。」
「おおー。すみやーせん。」
「ふんっ。これはちゃんと貸しにしておくでありんす。」
「わかっちゅう。」
酒を飲み終えた坂本は立ち上がった。先ほどまで千鳥足だった男とは思えないぐらいしっかりした足取りで百華に案内されて吉原を出る。
その後ろ姿を見送って月詠は踵を返した。
鳳仙の元に春雨から使者が来ていることはすでに耳に入っている。鳳仙がどう動くのかそれによってこれからの対応も変わってくる。
月詠は屋根を伝って一番見晴らしのいい場所へと移った。
『吉原桃源郷』まさしくここは夜王の箱庭だった。煌びやかな風情とは裏腹にここは女にとっての牢獄だった。売られてここにやってきた女達に自由はない。売り物にならない女は始末される。地上から地下へと移ってもそれは何も変わらない。
絶対者である鳳仙がいるために牢獄は更に堅固になり太陽は遠ざかっていく。
「太陽の下に行きたくないか?」
数ヶ月前に現れた男の言葉を思い出す。洒落者を気取って派手な着流しを着た男は調べてみれば幕臣だった。攘夷戦争の英雄の1人「鬼兵隊」の総督「高杉晋助」
天人からこの国を守るために動いた英傑だ。
提案を受け入れたことに後悔はないが、しかし本当に叶うのだろうかと不安になる。鳳仙の力は絶大だ。近くにいるからこそわかる。アレはとても人間が敵うようなものではない。
それでも・・・
太陽を求める。この箱庭を壊してくれることを。
日輪が、吉原の皆が笑って過ごせるような未来を・・。

求めずにはいられなかった。

 

吉原から地上へと移動した坂本はふっと安堵の息を吐いた。まさかターミナルで出会うとは思ってもみなかった夜兎の子供は以前に別れた時よりも格段に強くなっていた。あれから数年たっているのだが成長率が半端ない。昔でさえ時々、手に負えなかったというのに今なら手に負えないどころか敵うことも難しいだろう。困ったことになったと坂本はため息をついた。
しかも約束の時間には大遅刻だ。これはヅラも高杉も怒っちゅうろうなと坂本は思った。
桂からの緊急通信では「戻ってこい。大事な話がある」ということだけだった。その場で話さなかったのは盗聴の危険性を考えたからだろう。
どうやらよほど大切な話らしい。
なにか事件かと宇宙でも調べられるだけ調べたがそれほどの事件はなかった。とんぼ返りさせられた身としては、つまらないことだったらあのヅラを引っ張ってやろうと心に誓う。
まぁ、おそらくそれはないと思うが・・・。変なところで抜けているのが桂小太郎という男だ。
昔のことを思い出せば芋蔓式に行方不明の戦友のことが頭に浮かぶ。
あの子供に告げたように戦争後、高杉を庇って行方不明になった男。あれほど強い男だ。死んでいないと信じている。それでも時々、どうしても振り返ってしまう。
3人で酒を飲む時、困難な壁にぶつかった時、どうしたらいいのか迷う時、思わず名が出そうになるのだ。今、ここにいてくれればと思わずにはいられない時があるのだ。おそらくこういう衝動を持っているのは自分だけではないだろう。特に高杉は、無理をしているのが今はなんとか桂とそして師である吉田松陽が支えているがそれもいつまで保つか・・。
坂本は暗くなる思考を無理矢理止めた。
「きんとき~はよ~姿見とうせぇ~」
つい口から零れた言葉は夜の闇に消えていった。


それから数刻後、予想とはまったく違った報告を聞かされて坂本はぱかんと口を開けた。
「き、きんときがっ!!」
「ああ!!見つけたぞ!!坂本!!」
嬉しそうな桂、そしてニヒルに笑っている高杉を順に見て坂本はあまりの嬉しさに涙が出た。
「よかった。しょうまっことよかった!!」
坂本の歓声をうんうんと頷きながら聞いていた桂だったが、「じゃぁ、会ってくるきに」と言ってすぐさま踵を返した坂本を慌てて止めた。
「なんじゃ?ヅラ?」
「ヅラではない桂だ。」
「坂本、てめーはまだ接触禁止だ。」
「なきだ!?」
「それにあいつは数日は起きねェよ。」
「どうしたがだ!?怪我か!?ほれとも病気でも?」
「いや。俺が飲ませた睡眠薬で寝てるだけだ。」
「・・・なきほがなことになっちゅうだ!?」
坂本の嘆きをスルーして高杉は煙管をふかした。
桂が呆れたようにため息をつく。
「坂本。お前、あの子供に見つかっているのだろう。少なくともあの子供が地球を出て行かない限り銀時に会うのは禁止だ。」
「ほりゃあない」

桂と高杉の懇願だか脅迫だかわからない説得により結局、坂本がかつての戦友に出会えるのはそれから数週間後のことだった。


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