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2013/07/28



虹色キセキ (64)


*土佐弁は適当です。さらっと読み流して下されば幸いです。ご了承下さい。




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ぴょこんと飛び出たアホ毛がゆらゆらと揺れている。笑みを浮かべている顔が今は少しだけ不機嫌そうだ。
阿伏兎は己の上司である春雨第七師団団長ー神威がゆっくりと近づいてくるのを眺めた。
「おい。なにやってんだ!このすっとこどっこい。」
「あ、阿伏兎。」
声を掛けて初めて気付いたように神威は阿伏兎に目を向けた。
そして笑みを深めて言った。
「阿伏兎。そのお侍さん・・逃がすな。」
最後は恫喝するように低い声になっていた。阿伏兎はほぼ反射的に動いた。腕を伸ばして男を捕まえようとするが、避けられる。しかしその時には背後から近づいていた神威が傘を男の首の横に置いていた。
「逃げないでね。手元が狂って首を落とすかも。」
「あっはっは。物騒やか。」
笑いながら降参と両手を上げた。後ろから神威、前から阿伏兎が傘を突きつけているが男は焦った様子を見せない。
頭のネジが外れやがるなと阿伏兎は思った。
「それで?」
「なんやが?」
「お兄さんはどこにいるの?」
「知りやーせん。」
「へー、そー」
棒読みで相槌をうった神威は傘を持つ手に力を込めた。どう見ても男の言葉を信じていない。それを肩越しに感じた男は首を振った。
「まっことやか・・・あいつは行方不明やか。」
「へ?」
思ってもみなかった言葉を聞かされた神威は目を見開いた。
「ゆくえふめい・・・」
「そうやか。」
「なんで?いつから?」
「戦争が終わった後に・・。こっちも色々へちゅう。」
驚く神威に男は沈痛そうに肩を落とす。
そして顔を上げて
「やき、儂を追いかけてきてもあいつにゃ会えないき。」
と言って、ぽろりと開けた手のひらから小型の何かを落とした。

「あ」
思わず声を上げたのは阿伏兎だった。その声と重なるように白煙と爆音が響く。
傘を突きつけていた阿伏兎は立ち上った白煙によって目標を見失った。
場所は大通りだ。
悲鳴が広がる。
人通りはそれなりにあったので無理はないが、それ故に気配を辿ろうとしても無理だった。
立ち上がった白煙も爆音も派手だがそれだけだ。どうやら虚仮おどしだけの代物だったようだ。
ちっと舌打ちする音が近くで聞こえた。それと同時にかしゃんと小さく乾いた音がした。
まずいと阿伏兎は一歩大きく踏み出して傘を振り上げた。『夜王』の治めるこの地で夜兎が暴れたなど今後に影響がある。ただでさえこの先、どうなるかわからないのだ。神経を逆撫ですることは避けたい。
手応えと同時に銃声が響く。今度は阿伏兎が舌打ちして視界が悪い中、目的のものを掴んでそれを引き擦りながらその場から離れた。
白煙が収まった時にはそこには誰もいなかった。


 


銃声の轟く音を聞きながらやれやれと男ー坂本辰馬は安堵の息を吐いた。場所は先ほどいた場所の真横にあった茶屋だ。大通りにある店は大店が多い。この店もそうで内装は上品でそれでいて場所柄か煌びやかだった。今は突然起こった爆音と銃声に客はざわついていた。しかし店員は肝が太い者が多いのかあまり動じていない。
坂本はそそくさと店の奥に入っていき、障子戸で仕切られている座敷に上がりこんだ。坂本の顔を見知っているのか店員は何も言わずメニューを差し出した。
「ああー儂は酒を」
上等な日本酒を注文すれば続いて
「わっちは茶で」
と新たな人物が座敷に上がりながら注文した。店員は一礼して去っていく。
それを眺めてから坂本は障子戸を閉めた。
「お早いお出ましやき~」
「ふんっ。おんしが吉原に来ていると聞いたからじゃ。また何かしでかすのかと案じておれば夜兎とやり合っているとは・・・おんし、馬鹿じゃと思っておったが予想以上じゃな。」
「あっはっはっ。美人の毒舌はたいそいやか。」
笑いながら坂本は頭をかいて相手をサングラス越しに窺った。
若い女だ。美人でプロポーションもいいのだが、鋭利な気配と顔の傷が商売女ではないことを証明している。彼女はここ『吉原』の自警団『百華』の頭だった。名を月詠と言って『吉原』の花魁である日輪が太陽と云われているのに大して月だと云われていた。
坂本は何かと騒ぎを起こすので『百華』では要注意人物になっている。騒ぎといっても大して悪いことはしていない。むしろ女を殴る男を殴ったり高級酒を飲み干したり、酔っぱらって往来で寝ていたり・・大金を持っていて杜撰といっていいほどの大らかな性格の坂本は一部の女には評判もいい。
しかし坂本はそれだけの男ではなかった。
「わっちらは知らぬ存ぜぬを貫くが・・あまり派手になると動かざるえないでありんす。」
「今回のことは不可抗力やか。」
肩を落とす坂本に月詠は鼻で笑った。
「どうじゃか」
存外、この男は腹黒いことを知っている月詠は坂本の言葉を鵜呑みにはしなかった。ますます肩を落とした坂本は酒が運ばれるまで項垂れたままだった。

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