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2013/07/26

暑くて死にそうです。
皆様、熱中症にはくれぐれもお気をつけください。


虹色キセキ (63)


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世間話とも言える話(常人なら青くなるような物騒な話が多かった)をして阿伏兎は鳳仙の元から離れた。
常夜の吉原だが、客が多くなるのはやはり夜の時間帯だ。天敵である太陽の光の来ないこの場所は夜兎にとって都合のいい場所だった。元は幕府の造船所だったらしい。
それをどんな手を使ったのか、鳳仙が手にして地上にあった吉原を地下へと移動させた。数年経った今、地上と一線を引きここは文字通り鳳仙のーつまり天人の縄張りになっている。
煌めかしい建物と美しく着飾った女達。
しかし一歩裏へと足を進めればそこは地上では決して扱うことのない非合法の麻薬や人身売買などの取引が行われている無法地帯だ。
阿伏兎は煌めかしい表を眺めながらぶらぶらと大通りを歩いた。先ほどまでのやり取りでどうにも鳳仙を動かすのは難しそうだと判断した阿伏兎はこれからどうするか考えた。
もしも鳳仙が『春雨』に対して敵対行為を行うなら潰せと言われていたがそう簡単に出来るわけがない。なにせ相手は『夜王』なのだ。こちらの被害も覚悟しておかなければいけない。それに鳳仙が言っていた元第四師団団長の行方も気になる。この星の、おそらくこの国にいると思うが相手は知謀策謀で知られていた者だ。どうせ名も替えているだろうし。もしかすれば顔も替えている可能性がある。
そんな人物を探すとなると相当に骨が折れるだろう。もういっそ聞かなかったことにしようかとまで考えた阿伏兎はふと視線を感じて顔を上げた。
黒いサングラスをかけた男が千鳥足で近づいてくる。地球人だ。男は何故か阿伏兎を見てー正確には持っている傘を見てー嬉しそうにへらりと笑った。
「おお~おったぜよ!!兄ちゃん、ちっくと助けてくれ~」
「は?」
こうも馴れ馴れしく初対面の男に話しかけられたことがない阿伏兎は思わずあっけにとられた。阿伏兎は夜兎だ。それゆえに違う種族には恐れられている。自分が夜兎だと気付いていないのかと一瞬は考えたがすぐにそれはないと一蹴した。男は確かに傘を見たのだ。夜兎だという何よりの目印だ。そして男はそれを知っている。
夜兎だと知って気軽に話しかけてくるとは・・。地球人というのは意外に図太いのかと思っていると男は大きな口を開けて笑いながら阿伏兎と肩を組んだ。
避ける間もなかった。
男の様子に毒気を抜かれていたが、油断はしていなかったというのに。
阿伏兎は思わず目を据わらせた。
「おい」
「ちくっとどうにかしとうせェ~。」
笑っているがサングラスの奥の黒い目は言動や行動とは裏原に理知的だった。
阿伏兎が構えたのを知ってか知らずか男はさらりと言葉を紡いだ。
「お宅の団長さんやが。ちゃんと手綱は握っとうせ。」
「・・・・あの団長に手綱があると思うか?」
「あっははは。こりゃ、一本取られたぜよ。」
大笑いしている男から素早く離れて阿伏兎は傘を持ち直した。
男は丸腰に見える。『侍』かと思っていたが確か『侍』は刀を持っていると聞いている。
刀を持っているようには見えない。
「ほがーに警戒せきもいいよ。儂はお宅等に危害を加える気はないから」
「・・・まるで危害を加えようと思えば出来るとでもいうようだな。」
阿伏兎の言葉に男はわずかに首を傾げてからにこりと笑った。
「そうやろうか?」
「ああ。」
「あっはははは。」
阿伏兎の言葉に男はますます愉快そうに笑った。
「ワシは夜兎を何人か知っとうけど皆、よう似とうなぁ。」
「あん?」
「まっこと物騒やか。」
両手を広げて男はにたりと口を曲げた。
食えない男だ。
そしてどうやら団長のことを知っているらしい。
阿伏兎は傘を男に突きつけた。男はまったく動じていない。笑みを浮かべた顔で、ふいに肩越しに親指で後ろを指した。
「しっかとと捕まえていて欲しい。」
男の後ろから見知った顔が現れて思わず阿伏兎は顔を顰めた。

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