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2010/06/16


虹色キセキ (番外編1-3)

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鬼兵隊からの頼まれごとなど滅多にない。
むしろこれが始めてではないだろうか?
始めて会った時から天敵と認識している高杉晋助の不敵な顔を思い出しながら土方は拳に力を入れた。
「山崎イイー!!」
「はいいっ!!」
「行くぞ。ストーカー退治だ!」
「はいっイイ!?」
土方の言葉に山崎は顔に?を付けた。
「ストーカーって誰のですか?副長・・じゃないですよね?旦那ですか?」
「なんでアイツにストーカーがいるんだよ。」
「え~、だって旦那モテますよ。男にも女にも。割合的に男の方が多いような気がするのがアレですが・・。」
「・・・アイツがか?」
「旦那、普段ぶらぶらしてやる気ゼロですけど面倒見いいし気さくだし剣の腕は一流だし、隊士の中でも憧れてる奴多いんですよ。」
「・・・・・・・・」
「副長は旦那とは逆に女にモテモテですよね。まったく気にかけてもいないところが副長らしいですけど。」
うんうんと自分の言葉に頷いて、山崎は誰のストーカーか尋ねた。
「・・・・・鬼兵隊からの書類だ。」
山崎の言葉になんだか微妙な心境になりながら土方は鬼兵隊からきた書類を渡した。
「鬼兵隊からですか?」
鬼兵隊から仕事が回ってくることは珍しい。鬼兵隊は真選組よりも組織の規模が大きく、隊士も粒ぞろいだと聞く。攘夷戦争時の功績と戦後の彼らの働きから今では江戸で働きたい職場ナンバー1にもなっている。そんな鬼兵隊は本分の天人対策に追われていることが多いが攘夷浪士の検挙もするし、火事場で火消しと協力して被害を抑えたり、迷子を捜したりもする。真選組の仕事と被らないようにはしているが時折、領分を侵すことはある。しかしそれも文句のいいようのない働きをして解決するのでこちらがいちゃもんをつけることも出来ない。
そんな鬼兵隊が真選組に仕事を寄越すのは珍しかった。彼らは彼らで解決できる力が十分にあるからだ。
書類に書いているのは住所。そしてそこで働いている者をストーカーから守ってくれという依頼書だった。
店の名前は書いていない。住所はかぶき町の繁華街だった。
「ストーカー野郎をとっとと捕まえて高杉を見返してやる。」
「・・・・・それが本音ですね、副長。」
土方が高杉を天敵扱いしていることは知っている。今回もストーカーうんぬんはどうでもよくてさっさと解決して鬼兵隊総督の高杉の鼻を明かすことが目的なのだろう。
土方は普段思慮深く冷静沈着を心がけているのだが時々、子供のように熱くなる。
今日は近藤も沖田もそしてもう1人の副長である銀もいないので誰も止めるものはいなかった。
「行くぞ、山崎。」
「はい。」
土方を止めることなんて出来ない山崎は燃える土方に付いていったのは仕方がないことだった。
彼らは自分達が地獄の一丁目に足をつっ込んだことを知らないまま屯所を出た。
途中まで車で行き、かぶき町には徒歩で入る。
江戸屈指の歓楽街であるかぶき町は夜になるとどこからと思われるほど人が集まる。
煙草を銜えて人ごみを避けながら2人はとうとう書類に書かれてあった場所に辿り着いた。
2人とも思わず無言で店を見上げる。
看板には『かまっ娘倶楽部』と書かれてあった。
「・・・・・・・副長。」
「・・・・ここで住所は間違いないんだよな。」
「はい。まちがいありません。」
頷きながら山崎は書類に店の名前が書かれていなかった理由を悟った。そしてなぜ鬼兵隊がわざわざ真選組に依頼したのかを・・・。
「・・・・行くぞ。」
「・・・・・・はい。」
ああ、やっぱり入るのか・・と心の中で泣きながら山崎は土方の後に付いていった。
ちなみに土方と山崎は私服に着替えている。
店に近づくにつれ呼び込みをしているのだろうごついオカマと野太い声が聞こえてきた。
うっわ、帰りたいと思っている山崎とポーカーフェイスをなんとか保ったままの土方は店の中に入っていった。
店内には外にいたオカマに勝るとも劣らない濃いオカマ達がいっぱいいた。
段々と青褪めていく山崎は助けを求めるように土方を見た。
斜め後ろから見たその顔はどこか引き攣っている。
ああ、やっぱり副長も無理してんだよ!もういいよ、帰ろう!俺、ちょっと気分が・・・。
こちらで~すと野太い裏声で席に案内されながら山崎は吐き気と戦った。
なんで皆濃いのっ!!せめてもう少しオカマが似合う人いないのっ!
どこを見ても地獄絵図だと思いながら山崎はなんだか盛り上がっているステージの方に顔を向けた。
ひゅーひゅーと囃し立てる声とパー子ちゃーんという黄色?の悲鳴。
なんだ?と思ってステージを凝視しているとべべんと三味線の音が響いた。
三味線を弾いているのもオカマだった。濃いなぁーと思いながら勧められた席に座った山崎は案内してくれたオカマが今から踊りが始まりますぅーとやたらハートマークがついた声での説明を聞いて踊りかと息を吐いた。
オカマのハートマークが多いのは土方の顔のせいだろう。オカマの注目は土方に集まっている。本人、なんとかポーカーフェイスを気取っているが顔色は悪い。
地味でよかった。美形じゃなくてよかったと生まれて始めて自分の顔に感謝しながら山崎はステージに再度視線を向けてぽかんと口を開けた。
三味線の音に合わせて踊るオカマ達。その中で1人だけ際立って目立つ人がいた。
ツインテールにした銀髪。どこか気怠けな表情。白い顔には薄っすらと化粧が施されている。
濃くてごついオカマに囲まれているせいかひどく華奢に見える。
山崎は口をぱくぱくさせながら土方を振り仰ぐが、土方も銜えていた煙草を床に落として呆然とステージを見ている。
三味線の音に合わせてくるくると舞う。手にした扇子がひらりひらりと蝶のように揺れ動く。
凝視する2人の視線に気付いたのか明るいステージに立っていた銀はふいに目を土方達に向けて驚愕に見開いた。
そんな銀の様子で我に返った土方は席につめているオカマにこの店のオーナーとステージにいる銀髪、そして『あずみ』という店員を呼んで欲しいと頼んだ。
真選組の副長であることを告げれば渋っていたオカマはしぶしぶであったが了承した。
「ふふふ副長っ!!あれ!!旦那ですよねっ!!なんだか砂漠の中のオアシスみたいになってますが旦那ですよねっ!!」
「・・・・・・俺達の目が腐ってないならアイツだな。」
「なんで旦那がこんなところに・・・。」
「さぁな。」
土方は煙草に火を点けた。
煙草を吸うのは精神安定のためでもあった。
なんとなく、この場に総悟がいなくてよかったと思いながら土方はママらしき人物に引き摺られながら近づく銀髪を見た。逃げようとしているが相手の力の方が強いらしく抵抗らしい抵抗になっていない。
銀髪の横には『あずみ』らしきオカマの姿。
あれにストーカー?と訝しく思いながら土方は3人を待った。
「いやいやいや。シャレになってないから!便所行きたいんだって!!」
「嘘いうんじゃないよ。」
「嘘じゃないって。」
「ほら、指名だよ。」
「うおっ。」
土方の隣に投げ捨てられるようにして座った銀はとてつもなく居心地が悪そうに顔を背けた。
「・・・・・転職か?」
「転職するにしてもこんなとこに転職すっかよ!!化けモンの巣だぜ、ここ。」
「なんだってパー子。」
「なんでもありません~ママ(裏声)」
ドスのきいた声にへらりと笑って返して銀は隣で煙草を吹かしている土方を睨んだ。
「てめェこそなんでこんなとこにいんだよ?まさかお前、そういう趣味がっ!?(小声)」
「ちげェよ!!」
「なんだい?知り合いかいパー子?」
「いえ~全然っまったく知らない人ですぅ~こんな瞳孔開いた人~(裏声)」
「てめェなァ・・・・」
「お、落ち着いてください副長!」
「あれ?ジミーもいたの?地味すぎて気付かなかったわ。」
「旦那ァ~。」
銀の言葉に山崎はしくしくと涙を流した。
「・・・どうやら知り合いらしいね。」
「・・・・・・・・・・・まぁな。」
西郷の言葉に銀はしぶしぶだが頷いた。
「真選組の副長さんがわざわざ来てくれたのは嬉しいね。アゴ美も呼んだってことはストーカーのことかい?」
「あ、ああ。そうだ。」
半端じゃない威圧感を感じながら土方は頷いた。
ちなみに半円のソファで西郷、銀、土方、山崎、アゴ美の順で座っている。
アゴ美はあずみと呼んでくれなくて不満そうだ。
「鬼兵隊から真選組に依頼があった。」
「うっわ。それって完璧に嫌な仕事押し付けられてんじゃん。」
「・・・・・・・・・・・」
「やっぱり」
銀の言葉に土方は眉間に皺を寄せ、山崎は肩を落とした。
「こんな化けモンにストーカーする奴なんて絶対にまともじゃねぇよ。」
「誰が化けモンだって?パー子。」
「てめーだよ。どこから見ても化けモンだろーが。」
「やめねェか、2人とも。」
「「は~いママ(裏声)」」
ぎゃーぎゃ騒ぐ2人に西郷のドスのきいた声が落ちた。2人はすぐさまいい返事をして黙る。
そんな様子を見ながら土方は隣に座っている銀にぼそぼそと小声で話しかけた。
「てめーこのままオカマの道を突き進むつもりか?」
「んな道誰が突き進むか。(小声)」
「そのうち戻ってこれなくなるぞ。」
「おっそろしいこと言うな!(小声)」
「そもそもなんでてめーがここにいるんだよ?」
「あの猛者に引っ立てられて連れてこられたんだよ。そんでアゴ美の護衛してくれって言われて24時間オカマと一緒の地獄の日々だぜ。(小声)」
ふらりと銀がどこかに消えるのはよくあることだが、どうやら今回は自発的に消えたのではないらしい。ちなみに銀の場合朝、屯所にいないとわかると勝手に有給扱いになる。
「・・・てめーそろそろ有給なくなるぞ。」
「マジでっ!」
真選組は一応公務員だ。もちろん有給もあるのだが仕事が忙しく使う者は少ない。銀のように有給を使って休みまくる隊士はいなかった。(ちなみに沖田は仕事中に好きなだけさぼる方なので有給を使って1日休むといったことはあまりしない)
「最悪。こんなことに俺の貴重な休みが・・・・。って、そういやお前らストーカー対策に来たんだよな?(小声)」
「ああ。」
頷いた土方にきらりと銀は目を輝かせた。
「ママ~。この人達がアゴ美の護衛してくれるみたいだから、私もう帰っていいよね?」
「でもねぇ。」
「この男前が24時間警護してくれるって。それじゃぁ、ガンバッてね。トシ子にジミ恵。」
「「ちょっと待て~!」」
立ち去ろうとする銀を必死の形相で土方と山崎は止めた。
立ち去りたかった銀は土方に腕を掴まれて前に進めず、嫌そうに振り返った。
「・・・・なんだよ?」
「人に押し付けて自分だけ逃げようとすんじゃねぇよ!」
「そうですよ旦那!しかもジミ恵ってなんですか?」
「ジミ子の方がいいのか?」
「そうじゃなくて・・」
「ストーカー捕まえるんならアゴ美の傍にいるのが一番だろ。ガンバレジミー。新しい自分に出会えるかもしれねぇぞ。」
「そんなもの出会いたくないです!」
「大丈夫。大丈夫。ジミー地味だから女装しても変わんねぇよ。土方は・・・・うん、意外に似合うかもしれない。」
自分の腕を掴んでいる土方の顔を見ながら銀は頷いた。
ぞわっと鳥肌が立った土方は銀を逃がせば恐ろしいことになると直感して腕を掴む力を強めた。そして西郷に顔を向ける。
「こいつはうちの副長だ。」
「ちょっと土方君っ?」
「真選組としてこいつを護衛に付けとく。」
「オイー!!なに勝手なこと言ってくれちゃってんのっ!?」
「好きなだけ扱き使ってくれ。」
「オイー!ちょっと待てっ!!」
「その間にストーカーは捕まえておく。」
「オイコラー!!」
「そうかい。こっちとしては早くストーカー問題を解決してくれりゃぁなんでもいいよ。」
「ちょっと待って!!」
「ああ。それでストーカーについて話を聞きたいんだが・・。」
「お願いっ!!300円あげるから俺の話を聞いてっ!!」
「すみません旦那。」
「ジミーっ!?」
「護衛よろしくお願いします。」
「ちょっと待てっ!!なにほっとした顔してんのっ!?俺は早くこの化けモンの巣から出たいのっ!!って俺の話を聞けー!!」
喚く声を無視して話をする西郷とアゴ美と土方に銀はとうとう切れた。
すぐさま飛んできた鉄拳にその場で沈んだが叫ばずにはいられない銀だった。

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