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2010/06/17


虹色キセキ (番外編1-4)


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静かになった銀を後目に土方はアゴ美や西郷達に話を聞き、送られてきた写真や手紙を証拠品として預かった。
それらを纏めながら山崎を走らせた土方は一度屯所に戻り、そして閉店後にまたかまっ娘倶楽部に行った。
銀を店の裏口で呼び出し、すぱーと煙草を吸う。その横には頭を抱えぶつぶつと文句を言いながら座り込んでいる銀の姿があった。
「・・・・オイ。てめーはどう思う?」
「銀サンは土方君が俺の代わりに護衛をしたほうがいいと思います。」
「・・・・・そうじゃなくて、このストーカーのことだ。」
「ストーカーなんてもういいよ。そこらにいるおっさん捕まえてコイツが犯人ですってことにすればいいじゃん。」
「アホかー!!テメーなにいってやがる!!」
「俺は一分、一秒でも早くここから抜け出したいんだよォオ!!」
叫びながら銀は立ち上がった。
涙目だ。よっぽど嫌なんだろう。
「・・・・・・・・・・・」
土方は叫ぶ銀の姿を下から上へと見てため息をついた。
店内でいれば他が凄まじすぎるせいか華奢な女に見えるがこうして1人の時を見ると女にしてはガタイがいいのがわかる。
まぁ、同じような体格の男だ。あのステージではなぜか絶世の美女に見えたのだが、あれは気のせいだったのだろう。
「ため息つきたいのはこっちだって・・・。厄日だ。厄日。最悪だ。」
いまだにぐだぐだと文句を言っている銀にオイと声を掛けて、土方は煙草の灰を落とした。
「本当にストーカーだと思うか?」
「話を聞いた限りじゃストーカーだね。やってることもな。でも、なぁ・・・」
はぁとため息をついて銀は腕を組んで土方の向かいあうように反対の壁に背をつけた。
「クナイで狙われるわ、外を歩けば花瓶が落ちてくるわ、車が突っ込んでくるわ・・・・どうみても命狙われてんだろ。」
「行き過ぎたストーカー行為って言えなくはねぇが・・・」
「ありゃぁ、違うな。殺気が本物だ。それにな、まぁ、ストーカーのヤロウが忍びだってんならともかくクナイまで持ち出すなんざ本気で殺そうとしてる証拠だろうが。ご丁寧に急所を狙ってきてたしな。」
「この手紙も脅迫文ーと読めるんだよな。」
渡された手紙を一通取り出して土方は息を吐いた。
「聞いた話とこの手紙の内容から考えるにあのオカマはなんらかの取引現場を偶然目にして、しかも何かをそこから持ち去ったらしい。」
「アゴ美は初めの手紙が来る数日前、一週間ほど飲みに飲んでいた時期があったらしいからおそらくその時期に何かを見たんだな。でも、酔ってそのこと事態は覚えていないと・・・」
「手紙には行動を監視しているからといった脅し文句がつらつらとある。写真はおそらくそのことを知らしめるためのもんだろう。見張ってるからサツにタレこみをするな・・か。」
「まったく覚えていないアゴ美はそれを見てストーカーと勘違いっと・・・・。」
2人は同時にため息をついた。あまりにバカらしい勘違いだがこれだとストーカーがいた方が話が早かっただろう。
「アゴ美はまったく覚えてないらしいしなぁ。で、ストーカーと勘違いして奉行所に。アゴ美を監視している奴らはもちろんそれを知っている。」
「バラされたと思ったそいつらはあのオカマが持ち去ったものを取り戻すことを諦めて殺ることにした・・・か。」
「うっわー。物凄くめんどくさいことになっちまったな。」
「狙ってる奴らがわかれば場合によっちゃ大捕り物になりそうだな。」
「・・・・・楽しそうだねェ。瞳孔開いてっぞ。」
「ふん。見られてヤバイものの取引なんざ、武器かヤクに決まってる。」
「アゴ美が酔っ払って持ち帰れるようなものならヤクの可能性が高いか。」
「ああ。今、山崎に調べさせている。あのオカマの行動範囲でそれらしいことがなかったか。裏取れたら動くぞ。」
「へーへー。んじゃ、早く解決してくれよ。俺は早くこの地獄から抜け出したいんだ。・・・・・・・・あと、アゴ美には俺がついてるから誰も寄越すんじゃねぇぞ。」
「・・・・・・ああ、わかった。」
女装姿を見られたくないのだろう。土方を睨みながら銀は強い口調で言った。
ここに来る前に山崎が言っていた『隊士の中でも憧れてる奴が多い』という言葉を思い出しながら土方は頷いた。
憧れをおかしな方向に暴走させないためにも見せないほうがいいだろうと土方が内心考えているとは知らず、銀はどこかほっとしたように息を吐いた。



*  *  *



それから数日後、事件は終結した。
ある組織が売買しようとしていた薬の取引現場を抑え、真選組は関わり合いのあった者を一斉検挙した。
取引に使われた薬は残念なことにすべて燃えてしまったが、以前から天人と闇取引をしていると噂されていた会社を一網打尽にすることができた。
地獄から抜け出すことが出来た銀は以前のように屯所でごろごろして、時折ふらりと街を出歩いている。
事件の後始末をしている土方はどこか楽しそうだ。おそらく高杉に報告書を突き出す時のことを考えているのだろう。
そんな中、かまっ娘倶楽部にヅラ子が現れた。
「久しぶりーヅラ子。」
「あーもうちょっと早く来てくれたらパー子と一緒に踊らせたのにっ。」
「残念ねー。」
掛けられる声にヅラ子は首を傾げた。
「新しい店員がいたのか?」
「臨時だったけどカワイイ子がいたのよ。」
「ほぉー。」
相槌をうちながらヅラ子は西郷を探した。
西郷はカウンターで酒を飲んでいた。横にはアゴ美がいる。
なにやら愚痴を零しているアゴ美の邪魔をしては悪いかと声を掛けることを躊躇していたヅラ子に西郷が気付いて手招きした。ヅラ子は西郷の隣に座りストーカーはどうなったか尋ねた。
「ああ、ありゃ解決したよ。ストーカーじゃなかったらしいが真選組が犯人を捕まえてくれたよ。」
「それはよかった。」
高杉が真選組に押し付けたのかと思いながらヅラ子は出された酒に口をつけた。
そんなヅラ子に真っ赤な顔をしたアゴ美がそういえばと話し掛けた。
「ストーカーもどきが探してたのってコレじゃない?着物の袂に入ってたんだけど・・」
白い粉が入った小さな袋をアゴ美はヅラ子に手渡した。
それを受け取ってヅラ子はわずかに目を細めた。
「なにかしらね?」
「・・・・調べてみよう。」
そう言ってヅラ子はそれを懐にしまい、西郷達ととりとめない世間話をして店を出た。
かぶき町は夜の街だ。深夜になっても店の明りはついている。
酔っ払いの喧騒を背に女装を解いたヅラ子ーいや、桂小太郎は険しい顔つきで江戸城に戻っていった。



やがて桂が真選組にこの薬についての取締りを頼むことになるのは、それから数ヵ月後のことだった。


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