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2010/06/15



虹色キセキ (番外編1-2)


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冬といえば熱燗である。
そんなわけで酒が弱いくせに飲むのが好きな銀は案の定、酒場で酔いつぶれて寝ていた。
幸いなことに知り合いのスナックだったので女主人がカウンターで突っ伏した銀を閉店後、適当に床に転がして酔いつぶれた客用の毛布を掛けて放置していた。
「う、う~ん。」
店内は照明を落としてしまえば昼間でも薄暗い。
何度か寝返りをうってのっそりと起き上がった銀はぼりぼりと頭を掻いて二度寝をしていたが外の喧騒にとうとう目を開けた。
「・・・うっせーな。」
ぶつぶつ言いながら立ち上がる。床で寝ていたためか伸びをするとボキッと骨が鳴った。
欠伸をして掛けられていた毛布を手近なテーブルの上に置いてから銀は喧騒のする外の様子を見るために店の引き戸を開いた。
店の前で煙草を片手に喚いているのはこのスナックの店主お登勢だった。その前に男がーいや、化け物がいた。
「・・・おいおい。化けモン同士の喧嘩は他所でやってくれよ。」
「誰が化けモンだい!」
お登勢が銀の言葉に振り返った。
「俺は眠いんだよ。バカヤロー。」
「バカはお前だよ。まったくいつまで寝るつもりだい。」
ふわ~と欠伸をしながら銀はうっせーなと悪態をついた。
そんな銀を睨んでいたお登勢だったが、妙案を思いついたとばかりに先ほどまでいがみ合っていた相手を振り返った。
「ちょうどいい。こいつ連れていきな。」
「は?」
肩越しに親指で指されて銀はぽかんと口を開いた。
「ん?こいつが噂の『銀さん』かい?」
「そうだよ。バカだが腕は確かだ。」
「へぇ。」
目が合ってうげっと銀は顔を引き攣らせた。
立派な中年男が今は化粧と着物で化け物になっていた。濃いアイシャドウと赤い唇が気持ち悪さに絶妙な味をつけて最悪な感じを演出している。
近寄られて値踏みするような視線を向けられた銀は思わず言った。
「化けモン。」


ゴンッ!


「借りてくよ。」
「返却先は私んとこじゃないから戻すんじゃないよ。」
「わかったよ。」
一撃で気を失った銀は襟首を掴まれてずるずるとどこかに連れて行かれた。
2人を見た人達は一様に銀に同情の眼差しを向けたが声を掛ける猛者は生憎といなかった。
なんだかドナドナの曲が流れそうな感じである。引き立てられているのは子牛ではないが・・。
そんな2人が行き着いた場所は『かまっ娘倶楽部』という看板が掛かっている店だった。
白目を剥いた銀が目を覚ました時には着せ替えられ化粧をされウィッグまで付けられた後だった。
「・・・・・・・・・ここはどこ?私はだぁれ?」
思わず現実逃避をしたくなった銀の心境は押して知るべしである。
「パー子だ。アゴ美、面倒見てやんな。」
「・・・・ママ。私はアゴ美じゃなくてあずみよ。」
必死で現実逃避している銀は背を押されて1人のオカマの前に引っ立てられた。
濃い。どいつも濃い。
あまりの恐ろしさに銀は眩暈までしてきた。
「それじゃぁ、踊りを教えるわね。パー子。」
「・・・・・・・・・」
パー子ってなにっ!?なんで銀さんこんなことになってんのっ!?
心の底から叫びたかった銀だが後ろにいる人物の威圧感が凄すぎて何も言えなかった。
あれよあれよというまに扇子を渡されて店のステージのような場所に立たされる。隣もその隣もすべて濃いオカマばかりだ。
あ、悪夢だ・・・と思いながら銀は言われるままに扇子を振りながら踊った。
いっそ無我の境地である。
「パー子は物覚えが早いわね。」
「ヅラ子といいコンビになりそうじゃない?」
「そうねぇ。」
「今度、いつ来るのかしらヅラ子。」
「この間来たばかりだからまだ先よねぇ。」
「あ、そろそろ開店の時間よ。」
「今日、まっちゃん来るかしら?」
そんな心底残念そうにいうなよ!俺はわけわからずに連れてこられただけだぞっ!!そんで俺にはオカマになりたいっつう願望は欠片もねぇし、オカマとコンビ組むつもりもねぇよ!!あと、こんな化け物がうようよする店に来る奴いんのかよっ!?常連までいるのかよっ!?顔を赤らめるな!キモい!!
叫びたい。
心底叫びたい。
でも叫ぼうと口を開いた時、恐ろしいほどの威圧感と刺すような視線を感じて叫ぶに叫べなかった。
心の中でしくしくと泣きながら銀は客が入ってきた店内を見回した。
先ほどまで踊りを教えてくれていたアゴ美は下方で三味線を鳴らしている。
扇子で口元を隠して銀は隣のオカマに尋ねた。
「・・・なぁ、おい。ここのママ何者だよ?」
「あら、パー子は知らないの?うちのママはそりゃぁ有名なのよ。」
「・・・・・そうだろうな。あれか?かぶき町、恐怖を感じる人100人とか化け物100選とか・・・」
ぶつぶつと言いながらくるりと回る。
恐ろしいことに物覚えがよかった銀は考え事をしながらも踊れるようにまでなっていた。
「ママは『鬼神マドマーゼル西郷』って異名で通っているかぶき町四天王の1人よ。」
「マジかよ。」
「とっても強いんだから。」
だろうなぁと思いながら銀は接客をしている西郷を見た。
二日酔いでぼんやりしていたとはいえ拳が見えなかった。
猛者だ。物凄い猛者なのにオカマ。
頭が痛いと思いながら銀は扇子の影でため息をついた。
問題はどうやってここから逃げ出すかである。
あの化けモンの目をどうにかして逸らさないと・・・・。
半ばヤケクソ気味に踊っていた銀は視界にきらりと光るものが見えて反射的に動いた。
標的になっているアゴ美を上から蹴り飛ばして自分も床に伏せる。
カカカっと先ほどまでアゴ美がいた場所にクナイが刺さった。
「パー子っ!!」
「アゴ美!!」
「あずみだぁああ!!」
悲鳴と叫び声が聞こえる合間にいつもの癖で腰に差した木刀を抜こうとして木刀自体がないことに気付き、ちっと銀は舌打ちした。クナイが投げられた店の酒が置かれているカウンターに走り寄るが慣れない女物の着物と草履のためにいつものスピードが出ない。
「パー子っ!」
「・・・・・・逃げたか。」
カウンターには誰もいなかった。
踵を返すとやっぱりストーカーがぁああっと喚いているアゴ美とそれを宥めているオカマ達、そしてそれをショーの一環かとわいわいと見ている酔っ払い達。
絵柄的にとことん美しくない光景である。
銀は床に刺さっているクナイを抜いた。
「・・忍びかねぇ?」
「わからねぇな。最近じゃぁ、クナイなんて忍びじゃなくても手に入れられるからなぁ。」
「私の店でよくやってくれたもんだよ。」
床に刺さったクナイを見下ろしながら冷やりとした空気を纏って西郷が笑みを浮かべた。
その笑みをタイミングよく見てしまった銀はうっと顔を引き攣らせて後退った。
鼻息荒く西郷はいまだに叫んでいるアゴ美を一蹴りで黙らせてその襟首を掴んで銀に目配せをした。
恐ろしい視線にしぶしぶと銀は2人の後に付いていった。
店内では笑って誤魔化したオカマ店員達が先ほどまでのことを吹き飛ばすようにまた音楽を鳴らして踊りを踊りだす。
三味線の音を後に銀は店の休憩室と思わしき部屋に入った。
ドアを閉めると途端に音楽と喧騒が聞こえなくなる。
西郷は大きなソファにあご美を無造作に放り投げた。恐るべき力である。
そしてアゴ美の横に座り、銀にその対面に座るように顎で指した。
息を吐いて肩を落とした銀が座ると西郷は腕を組んで話し始めた。
「・・・・・最近、アゴ美がストーカーされていてね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・そりゃぁ、凄い。」
この場合いろいろと凄いのはストーカーの方である。
「アゴ美のその日の行動が書かれた手紙や隠し撮られた写真が連日送られてきてね。」
「そりゃぁ、ストーカーっていっていいな。奉行所には?」
「行ったさ。でも大したことはしてくれなくてね。」
奉行所の気持ちはわかるなぁと銀は思った。これがか弱い感じの美少女や美女だったら24時間体制で守ってくれるだろう。しかし訴えたのはオカマ。やる気ゼロなのは無理もない。
「この前、街で見掛けた鬼兵隊の隊士に私も必死で訴えたんだが・・・・・」
うっわ、むごい。そして運がないなその鬼兵隊の隊士。
生きてんだろうか?
「聞く耳もってくれなくてね。」
「・・・・・・そりゃぁ、聞く耳持つ前に意識がなくなってんじゃぁ・・・」
ぼそりと銀は呟いた。どうやら西郷には聞こえなかったようで拳は飛んでこなかった。
「どうしようかとあちこちに相談してるんだが・・・」
そこで話を切って西郷は銀を真正面から見た。
「・・・・アンタの噂はよく聞いてるよ。」
「噂になるようなことしたっけ?俺。」
「あちこちで暴れまわってるそうじゃないかい。今じゃぁ、かぶき町のちょっとした名物男になってるよ。」
「マジでっ!?俺、モテモテっ!!」
「そうだね。ある筋の奴らにモテモテだね。」
「・・・・・・・ああ。ある筋ね。俺、綺麗な女にならモテたいけどある筋の奴らにはモテたくないわ。」
「まぁ、そういうわけでアゴ美の面倒よろしく頼むよ。」
「待ったァア!!なにがそういうわけっ!?どこでどう話が繋がってそうなったの!?」
「文句あんのかい?」
「・・・・・ありません。」
目の前でぴたりと止まった拳と風圧に銀は反論することも出来ずに両手を挙げた。


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