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2010/06/14


虹色キセキ (番外編1-1)


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江戸城にある鬼兵隊本部。
さらにその奥にある鬼兵隊総督高杉晋助の元に客人が現れたのは寒い冬のある日だった。
べべんと三味線を弾いていた高杉は心底嫌そうに眉を寄せた。
「・・・なんの用だ?ヅラァ。」
「ヅラじゃない桂だ。」
「用がないならとっとと帰れ。」
「用があるから来たに決まっているだろう。・・・ところで客人に茶を出そうとは思わんのか?」
「てめェは客じゃねぇ。」
「茶菓子も持参してきた友に対して貴様は礼も言えんのか?」
「誰が友だ。てめぇみたいなのと友達になった覚えはねぇよ。」
「貴様ァアア!そんなんだから昔から友達がいないんだぞっ!!友達100人とおっしゃっていた先生の言葉を忘れたのかっ!?」
「都合よく先生の言葉を曲解して覚えてんじゃねぇよ。」
三味線を片手に、ちゃっかりと座布団を敷いてその上に正座している桂を高杉はげしげしと蹴った。
「てめェ本当に帰れ。」
「だから用事があると言っただろうが!」
蹴られてもへこたれない男ー桂は上から見下ろしてくる高杉に向かって距離を取りながら叫んだ。
「・・・・用はなんだ?」
三味線を壁に立てかけて高杉は腕を組んで桂を睨んだ。
桂の手元にはいつのまにか湯呑みと桂が持ってきたと思わしきせんべいの袋があった。
その斜め後ろには白い大きなオバ◎に似ているえいりあんがいた。
「・・・・おい。その妙なのはここに連れて来るなと言っただろうが。」
「妙とは失礼な。エリザベスだっ!!」
「名前なんざどうでもいい。・・・・・坂本のバカも変なのをバカに渡しやがって・・」
「エリザベスは俺の大切な同士だっ!!」
「・・・・てめェこそ友達いねぇだろ。・・はぁ、もういいからさっさと用件を言え。それでとっとと出て行け。」
電波バカの相手は疲れると思いながら高杉は袂から煙管を取り出した。
高杉の言葉に納得したのかそれとも気が済んだのか桂は『うむ、そうだな』と頷いて懐から一枚の写真を取り出した。
「実は知己がストーカーにあっていてな。」
「奉行所にでも行け。」
「奉行所に訴えたんだがあてにならんそうでな、次に鬼兵隊に訴えたのだが奉行所に行けと言われたのだ。」
「・・・・・」
高杉は煙管を銜えながら眉を寄せた。
『鬼兵隊』
高杉率いる攘夷戦争時に結成された武装集団である。身分・出自を問わず、また攘夷戦争時の功績から入隊希望者はとても多いがその分だけ競争率は激しく、また隊内の規律はとても厳しい。
民衆に対する振る舞いも徹底的に教育されている隊士が鬼兵隊の本来の仕事から外れているとはいえ、そのままたらい回しにするようなことをするとは・・・。
「奉行所にはすでに訴えていると隊士に詰め寄って話を聞いてもらおうとしたのだが聞く耳を持ってくれなかったそうだ。」
「そりゃぁ、悪かったな。その隊士には俺からきっちりと言い聞かせておく。」
「うむ。」
高杉の言葉に頷いて桂は写真を掲げた。
「ストーカー行為も段々とえすかれーとしているそうでな。なるべく早く対処してくれ。」
「ああ。」
頷いて高杉は桂から手渡された写真に視線を落とした。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
写真は集合写真だった。店の前で従業員が並んで写っている。その中の1人に赤いマジックで○がされてあった。おそらくこの人物がストーカーの被害者なのだろうが・・・。
「オイ、ヅラァ。」
「ヅラじゃない桂だ。」
「てめェ、人になんてもの見せやがる。」
店の看板には『かまっ娘倶楽部』の文字が。つまり、そういうことである。
写真に写っているのはどれもごつくて毛深いむさくるしい男ばかりだったが、皆、女物の着物を着て化粧をしている。
高杉は嫌そうに写真を床に捨てた。
「・・・・・・・化けモンじゃねぇか。これにストーカー?」
「化け物とは失礼だぞ高杉!アゴ美殿は立派なかまっ娘倶楽部の店員だ!」
「化けモンにしか見えねぇよ。」
「そんなことないぞ。着物だけ見れば立派な女子だ。」
「てめェこそちゃんと見てないだろうが。」
ごほんと咳払いをして桂はすちゃっと立ち上がった。片手にはせんべいの袋。いつの間に飲んだのか湯呑みの中は空になっていた。
「じゃぁ、任せたぞ高杉。」
「おい、コラ、てめェちょっと待て!!」
怒鳴る高杉を無視してさらばだと言って桂はエリザベスを引き連れて去っていった。
残されたのは化けモノ集合写真1枚だけである。
高杉は心底嫌そうに床に落ちたままの写真(裏)を見下ろしてから、江戸での右腕である河上万斉を呼び出した。
数分後にやってきた万斉が見たものはとてもつもなく不機嫌な高杉だった。
「・・・・どうしたでござるか?先ほどまで桂殿が来ていたのだろう?なにかあったのでござるか?」
「ヅラに嫌なこと押し付けられた。」
高杉は窓際に腰を掛けて片膝を立てたまま床に落ちていたままになっている写真を顎で指した。
「・・・・・なんの写真で・・・」
床に落ちた写真を拾って見た万斉は思わず無言になった。
はっきりいって写真に写っているものは物凄くインパクトがあるものだ。無言になるのもとてもわかる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これがどうしたでござるか?」
しばらくして万斉は高杉に尋ねた。副業で業界の仕事をしている万斉だからこそダメージはまだ少ない方なのだろう。
「・・・赤い印がついてる化けモンがストーカー被害にあってるらしい。」
「それは、また・・」
この場合、なんだかストーカーの方に賞状かなにかを渡したい。すごい奴がいたものである。
「ヅラの知己らしいんだが・・・」
「桂殿の?・・・一体どういう知己でござるか?」
「知らねぇよ。知りたくもねぇ。」
「それで?ストーカーを鬼兵隊で捕まえろと?」
「・・・・・・・・」
万斉はわずかに首を傾げてそういえばと思い出したように口を開いた。
「晋助、確か数日前に隊士の1人が何者かに襲われたらしく泡を吹いて倒れていたことがあったのでござるが、なんでも周りの話を聞くところによると女物の着物を着た化物に詰め寄られて揺さぶられて意識を失ったそうでござるよ。」
「・・・・・・・・・・その隊士はどうした?」
「今、病院に入院中でござる。その日から魘されて満足に眠れないらしく、ちと衰弱しているでござるよ。」
「・・・・・・・・・・・・そいつにちゃんと労災下ろしてやれ。」
「わかったでござる。」
高杉は煙管をふかしながらどうするか考えた。
はっきりいって関わりあいたくない、部下にも関わらせたくない事件である。
「晋助。どうするでござるか?ちなみに拙者、明日から副業がちと忙しいので無理でござるよ。」
しれっとした顔で以前から用事があったかのように言っているがようするに先に逃げただけだ。
高杉は部下をじろっと睨んでから、口を開いた。
「・・・・真選組に任せる。」
「わかったでござる。」
即座に頷いた万斉はよほどオカマに関わりあいたくないのだろう。
こうして滅多にない鬼兵隊から真選組への仕事の依頼ができたのであった。


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