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2011/06/03


虹色キセキ (61)


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ぱちんと乾いた音がそれまで静かだった部屋に響いた。
広い和室に男が2人、碁盤を間に挟み、向かい合って座っている。
座布団の上に正座してまっすぐに背筋を伸ばし、碁盤を凝視しているのは吉田松陽ー幕府の重鎮中の重鎮だ。
その彼に向かい合って煙管をふかしているのは歓楽街かぶき町の四天王の1人ー泥水次郎長だった。
「う~ん、そうきましたか・・・。」
2人が向かい合って何をしているのかといえば『囲碁』である。
ふぅと煙を吹き出した次郎長は真剣な顔をして碁盤を見下ろしている松陽を一瞥してから息を吐いた。
「・・・・で、なにかあったのか?今日は随分と機嫌がよさそうだが・・。」
対面を果たしてから毎日のように現れる松陽に溝鼠組の者達はすでに慣れてしまっていた。初めこそ警戒心がバリバリだったが今では慣れて気安く挨拶を交わすようにまでなっている。
そんな中、次郎長だけはため息をついて相手をしていた。
いつもにこにことしていて内面が読めない相手だが今日は外面に現れるほど機嫌がいい。
よほどいいことがあったのだろう。
そう思って尋ねてみれば松陽はますます笑みを深めた。
「ずっと探していた子が見つかったんです。」
「・・・子?あんた、子供がいたのか?」
「ええ。血の繋がった私の子供ではないのですが本当の子供のように思っている子です。」
「ホォー。」
聞いたことがないなと思いながら次郎長は煙管を口に含んだ。
「とても優しいいい子なんです。」
「はっ。そりゃァ、見つかってよかったじゃねェか。」
「ええ。本当に・・・」
薄っすらと笑みを浮かべながら松陽はぱちりと碁石を置いた。
碁盤を見て次郎長は顔を顰めた。
どうも分が悪そうだ。
「・・・・待つ時間が長いとどうしても悪い方向に思考が偏ってしまいます。」
「・・・・・・・・・」
「停滞している状況というのは長ければ長いほど悪い方向に行きやすいものですから。」
「・・・・・・・・・」
「そしてその状況に慣れてしまえば動くことは難しくなってしまう。」
「・・・・・・・・・」
ぱちんと次郎長は無造作に黒い碁石を置いて、松陽を睨んだ。
「・・・・動く気か?先生。」
「さて・・・・」
ぱちんと今度は松陽が白い碁石を置く。
碁盤を見下ろしているその顔からはなにも読み取れない。
穏やかに、ただ、ひたすらに凪いでいる。
次郎長は松陽から目を逸らして太陽の光を浴びている庭に視線を移した。
いい天気だ。
平和な光景だが、この国はーこの星は実際のところ平和とは言い難い状況にある。
それに気付いている者はどれぐらいいるだろうか?
政府の高官の中には国の現状に気付かないままこの国を売り渡すようなことをしている者もいる。
じわじわと侵食されている危険性に危機感を抱いている者は少ない。
「戦争は嫌いです。でも人には戦わないといけない時もあります。」
「・・・それが今か?」
「なるべくは避けたいのですけどね。戦争なんてものは・・。」
「この国はどんどん天人の技術を吸収してる。戦争兵器どうしの戦いも今なら五分にまで持ち込めるだろうさ。ただ・・・・・。」
ふっと次郎長は息を吐いてまた視線を松陽に戻した。
「宇宙は広い。兵器なんぞ物ともしない奴らもいる。」
「・・・ええ。」
「特に厄介なのが『夜兎』だな。」
「・・・・・・・」
「『春雨』にいるだろう。厄介なのが。」
次郎長が黒い碁石を置いた。
そしてふと思い出したように視線を逸らした。
「そういやァ、いるな。この国にも・・・」
「『吉原桃源郷』」
「政府も手が出せない夜の国。その国の王。」
「「夜王『鳳仙』」」
厄介なことだとつぶやいて次郎長は肩を竦めた。




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