忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2010/08/02


09.刀

拍手


真選組結成時に渡された刀はそれなりの業物らしい。
土方君がやけに熱く語っていたのでなんとなく覚えていた。
ちなみに土方が熱く語った経緯は俺が刀を放置状態にしていて手入れをまったくしていないことがばれたからだ。
横で文句を言われながら手入れをしたこと数回。すっかり忘れていてジミーが手入れをしてくれたこと数十回。
刀は刀台の上で置物になっている。




溜めていた書類にとうとう堪忍袋の緒が切れたのか土方君が乗り込んできた。
俺は泣く泣く書類にサインをしていく。俺を逃がさないためか、土方君は逃走経路を抑えるように障子戸の前に陣取って座って煙草を銜えている。
そんな状態でどれぐらい時間が経っただろか。
突然、土方君が口を開いた。
「・・・なんで、それを使わねェんだ?」
「あん?」
俺はなんのことだ?と胡乱気味に土方君の方を振り向くと不機嫌そうな顔が目に入った。
「刀だ。お前、普段は木刀を使ってんだろ。」
「・・・・ああ」
それのことかと俺は納得して今度は刀台に目をやった。
「いいじゃん木刀で。俺が使えば真剣並に威力があるし。」
「んなこたァ知ってる。木刀で大木を切れるのはてめーぐらいしかいねェよ。俺が聞きたいのはなんで真剣を使わないのかってことだ。」
「・・・・んー」
なかなか答えられないことをズバリ聞いてくる。
俺が思うに土方君は沖田君より遠慮がない。
沖田君は踏み込んで欲しくない線をよく知っている。-まァ、時々線を飛び越えるどころかミサイル並の勢いでつっ込んでくる時もあるけど・・・。
土方君はその線を知らずに踏み越えてくる。まァ、ようするに変なところで鈍いのだ。
「なんでって言われてもなァー。」
考え事をしたせいかサインの字が歪んだ。
まァ、いいか。
「・・・・・斬るのがイヤなのか?」
「バッカじゃないの。本気でそんなこと思ってるならお前、副長失格な。」
「・・・本気で思ってたわけじゃねェーよ。」
「へェー。」
俺は肩を竦めて持っていたペンを置いた。
ちなみに俺はサインを筆ペンでしている。土方君は墨を磨って筆で。隊士の半分以上は俺と同じように筆ペンだ。ちなみに沖田君は自家製の芋版らしい。
俺は立ち上がって床の間の前に立った。
刀台に置かれている刀を見下ろして、それを手に取った。
木刀とは違う重さだが、こちらも慣れ親しんだ重みだった。身体が覚えているのだろう。
刀を片手に土方君に近づく。
土方君は訝しそうに眉を寄せただけでその場から動かなかった。
「・・実はさ、俺・・・・」
かちゃりと鯉口を切った音が部屋に響いた。

一閃

ぼとりと土方君が口に銜えていた煙草の先半分が畳みの上に落ちた。
「・・・やっぱり、なんか違和感があるんだよなァー。」
刀を目の前でかざす。
この間、ジミーが手入れをしてくれたからか刀身に自分の顔の影が映っていた。
「・・・ってめー!!いきなりなにしやがるっ!!」
「う~ん、なんでだろ?」
「それはこっちが聞きたいわっ!!」
刀を鞘になおす。
片膝を立てた土方君を見下ろして俺は困ったように首を傾げた。
「いや、なんかさ、どうも刀に違和感を覚えて・・・」
「それがなんでさっきの行動になる!?」
「・・・試し斬り?」
「ふざけんなァー。」
声を荒げる土方君にため息をついて俺は手に持っている刀に視線を落とした。
これは俺の刀じゃないとどこか遠くで声が聞こえた気がした。
PR