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2010/07/31


08.血


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血の匂いは何をしても消えることはない。
洗い流すだけでは消えない。
あれは骨に、肉に、全身に染み付いていくものだ。



「おっきったく~ん」
「・・・・・・・」
遠慮なんてしていたら話も何も出来ないと知っている俺は遠慮なく部屋に入った。
片手には救急箱。もう片方の手にはホットミルク。
暗い部屋の中で畳みの上に寝転がっているこの部屋の主を見下ろして苦笑する。
片腕で顔を覆って身動ぎ1つしないのは寝ているからではないことは知っている。
障子戸を片足で閉めて寝転がっている沖田君の横に胡坐をかいて座る。
「・・・・何か用ですかィ、旦那ァ?」
「傷の手当て。あと、落ち込んでる子供を慰めに来てやったんだよ。」
「俺はっ!!」
珍しく声を荒げて沖田君は上体を起こした。勢いよく片手が畳みの上に振り下ろされる。
「・・・・もう、子供じゃない。」
「俺にしてみればお前はまだ子供だよ。まァ、ちょっとヒネクレてるがな。」
沖田君は俯いて俺はと小さく呟いた。
俺は苦笑しながら沖田君の左手に触れた。
「ほら、手当てしてやるから手を出せ。近藤達には知られたくないんだろ。」
「・・・・・・・・・なんでわかったんですかィ。」
黒の隊服は血の色を隠す。
「誰にも気付かれなかったのに・・・。」
「俺、血の匂いに敏感だから。」
腕を取る。血の沁みた隊服の袖は重く湿っていた。
出血は止まっているのだろう。でも、放っておいていい傷ではない。
救急箱から包帯と化膿止め等を取り出す。
大捕り物の末に負傷者が出ることはよくあることだった。
しかし今回は双方とも死者が出たと聞いた。
そして一番の功労者ーようするに一番活躍、人をたくさん切ったーのは沖田君だった。
「旦那は・・・・」
大人しく傷の手当てを受けていた沖田君が自分の腕を見ながら口を開いた。
「人を切ったことがありますか?」
「あるよ。」
「・・・・・・・殺したことは?」
「あるだろうな。」
白い包帯が細い腕を覆っていく。
血の匂いが消毒液の匂いに掻き消されていくが、すべては消えないだろう。
身体に染み付いた匂いは落ちないものなのだ。血の匂いは特に。
包帯を巻き終えて俺は救急箱の蓋をした。最近、この救急箱は大活躍中だ。あまりいいことではないが・・。
「・・・旦那」
「ん?」
まだ俯いている沖田君の頭に手をおく。そしてぽんぽんと幼子をあやすように叩いて、畳の上に無造作に置いているマグカップを手渡した。
両手でそれを持って沖田君はしばらく無言で中身を見下ろしていた。
やがて、ゆっくりと腕が動いて沖田君は口を付けた。
「・・・・・・甘い・・」
銀さん特製の蜂蜜入りホットミルクはわずかに血の匂いを遠ざけた気がした。
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