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2010/07/17


07.鬼

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「土方君が『鬼』ねェ~。」
新聞の一面記事を見てぶっと笑った。
「へェ~。土方コノヤローには過ぎた渾名ですねィ。」
昼寝をしていた沖田君が起き上がりながら嘲笑する。
読み終わった新聞を畳んで沖田君に渡した。
「もういいんですかィ?」
「俺が見たかったのは番組欄。ドラマの再放送の時間が知りたかっただけだから。」
「他はなにも読まないんですかィ?そんなんじゃ世情に置いていかれますぜ、旦那。」
「んーあんまり興味ない。」
「・・・・そういうわりに旦那って情報通でさァ。まァ、政治欄読む旦那なんて想像できませんけどね。」
がさがさと新聞を捲る音と共に呟かれた言葉は流しておく。
ちなみに俺が時々番組欄以外で見るのは江戸中央市場の野菜の卸値ぐらいだ。
「鬼兵隊のお手柄と・・俺達、真選組の記事が一面ですねェ。こうして並べてるとエコヒイキがひどい気がしますぜ。」
「そりゃ当たり前だろ。向こうは攘夷戦争の英雄でこっちは芋侍。世間の目がどっち向くかなんて一目瞭然じゃん。」
「・・高杉晋助の顔は写ってないですねェ。ヤロー高見の見物かよ。」
「ああ、そういや沖田君は会ったんだっけ、その高杉さんに。どんなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・目付きの悪い男前でしたぜ。」
「ふぅ~ん」
「それに・・・・・・・・・」
「沖田君?」
「なんでもありません。・・・・ああ、土方コノヤローちゃっかり写ってやがる。」
一面にある写真はパトカーと走り回っている隊士、そして奥でなにやら指示を出している土方の姿があった。
土方の片手には抜き身の刀があり、険しい顔つきをしている様から満身創痍の隊士を叱責しているようにも見えた。
記事には負傷者そして死亡者の数が書かれている。これだけの被害が出たのは始めてなので今も屯所内はドタバタと騒がしい。
「『鬼』・・か。似合わなねェな。」
「旦那だったら土方コノヤローにどんな渾名付けますか?」
「土方君だったら渾名は1つしかねェよ。『マヨラー』で十分だろ。」
「まったくでさァー。」
きゅぽんっと音を立てて沖田君は油性マジックで落書きを始めた。
物凄く楽しそうだ。
ああ、でも、確かこの新聞はまだ俺達しか読んでいないはず・・・。
「あっ!てめーらこんなところにいたのか・・・って、なにしてる総悟ォオオ~!!?」
「見て分からないんですか?落書きですぜ。ついでにてめーの顔にも書いてやろうか?」
「いらねェーよ!!てめーら仕事しろォオー!!」
叫ぶ土方を後目に芸術的に仕上がった新聞記事の写真は原型を留めていなかった。

後日、せっかく『鬼』の副長になったのだからと沖田君が会議で勤務時間は土方は鬼の棍棒(発砲スチロール製)と黒と黄色のしましまパンツを着用するようにという案を出したが速攻で土方に却下された。
その日、土方の部屋で小火騒ぎがあり、隊服と普段着の着流しが燃えたが土方は鬼のパンツだけは嫌だったようだ。呉服屋に走る土方の背中を見ながらあそこまでする沖田君と被害にあっている土方に無言で手を合わせた。
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